精神疾患の障害認定基準
※ 障害認定基準を省略し、解釈を加えています。障害認定基準平成25年6月1日の主な改正点を赤字で表記しています
●うつ病、統合失調症など対象、神経症も条件を満たせば対象に
そううつ病、統合失調症、認知症、アルツハイマー病、脳動脈硬化症に伴う精神病、頭蓋内感染に伴う精神病、アルコール精神病、てんかん、知的障害、発達障害、高次脳機能障害などの精神疾患が対象になります。また、パニック障害、強迫性障害などの神経症でも、その臨床症状から判断して「精神病の病態」を示しているものについては対象になります。
精神の障害は、多種であり、かつ、その症状は同一原因であっても多様です。したがって、認定に当たっては具体的な日常生活状況等の生活上の困難を判断するとともに、その原因及び経過を考慮します。
精神の障害は、「統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害」、「気分(感情)障害」、「症状性を含む器質性精神障害」、「てんかん」、「知的障害」、「発達障害」に区分します。症状性を含む器質性精神障害、てんかんであって、もう想、幻覚等のあるものについては、「A 統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害並びに気分(感情)障害」に準じて取り扱います。
統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害並びに気分障害
ア)各等級に相当すると認められるものを一部例示すると次のとおりです。
イ) 統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害並びに気分(感情)障害の認定に当たっては、次の点を考慮のうえ慎重に行います。
◆統合失調症は、予後不良の場合もあり、国年令別表・厚年令別表第1に定める障害の状態に該当すると認められるものが多くあります。しかし、羅病後数年ないし十数年の経過中に症状の好転を見ることもあり、また、その反面急激に増悪し、その状態を持続することもあります。したがって、統合失調症として認定を行うものに対しては、発病時からの療養及び症状の経過を十分考慮します。
◆気分(感情)障害は、本来、症状の著明な時期と症状の消失する時期を繰り返すものです。したがって、現症のみによって認定することは不十分であり、症状の経過及びそれによる日常生活活動等の状態を十分考慮します。
また、統合失調症等とその他認定の対象となる精神疾患が併存しているときは、併合(加重)認定の取扱いは行わず、諸症状を総合的に判断して認定します。
ウ)日常生活能力等の判定に当たっては、身体的機能及び精神的機能を考慮の上、社会的な適応性の程度によって判断するよう努めます。また、現に仕事に従事している者については、労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認したうえで日常生活能力を判断します。
エ) 人格障害は、原則として認定の対象となりません。
オ) 神経症にあっては、その症状が長期間持続し、一見重症なものであっても、原則として、認定の対象となりません。ただし、その臨床症状から判断して精神病の病態を示しているものについては、統合失調症又は気分(感情)障害に準じて取り扱います。
なお、認定に当たっては、精神病の病態がICD―10による病態区分のどの区分に属す病態であるかを考慮し判断します。
症状性を含む器質性精神障害
ア) 症状性を含む器質性精神障害(高次脳機能障害を含む)とは、先天異常、頭部外傷、変性疾患、新生物、中枢神経等の器質障害を原因として生じる精神障害に、膠原病や内分泌疾患を含む全身疾患による中枢神経障害等を原因として生じる症状性の精神障害を含むものです。
なお、アルコール、薬物等の精神作用物質の使用による精神及び行動の障害(以下「精神作用物質使用による精神障害」という)についてもこの項に含むものです。
また、症状性を含む器質性精神障害とその他認定の対象となる精神疾患が併存しているときは、併合(加重)認定の取扱いは行わず、諸症状を総合的に判断して認定します。
イ) 各等級等に相当すると認められるものを一部例示すると次のとおりです。
ウ) 脳の器質障害については、精神障害と神経障害を区分して考えることは、その多岐にわたる臨床症状から不能であり、原則としてそれらの諸症状を総合して、全体像から総合的に判断して認定します。
エ) 精神作用物質使用による精神障害
◆アルコール、薬物等の精神作用物質の使用により生じる精神障害について認定するものであって、精神病性障害を示さない急性中毒及び明らかな身体依存の見られないものは、認定の対象となりません。
◆精神作用物質使用による精神障害は、その原因に留意し、発病時からの療養及び症状の経過を十分考慮します。
オ)高次脳機能障害とは、脳損傷に起因する認知障害全般を指し、日常生活又は社会生活に制約があるものが認定の対象となる。その障害の主な症状としては、失語、失行、失認のほか記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などがあります。
なお、障害の状態は、代償機能やリハビリテーションにより好転も見られることから療養及び症状の経過を十分考慮します。
また、失語の障害については、本章「第6節 言語機能の障害」の認定要領により認定します。
カ) 日常生活能力等の判定に当たっては、身体的機能及び精神的機能を考慮の上、社会的な適応性の程度によつて判断するよう努める。また、現に仕事に従事している者については、労働に従事していることをもつて、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事揚で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認したうえで日常生活能力を判断すること。
◆高次脳機能障害が認定基準で明確に示されました(H25年6月1日改正)
交通事故や脳卒中などで脳が損傷を受けたことが原因となり、理解力などが低下し、社会適応が困難となる「高次脳機能障害」。これは脳の器質性損傷による精神障害です。なんらかの原因で脳に損傷を受けた後に、「行動がおかしい」「介護や見守りが必要」「回復の見込ない」などの場合は障害年金の対象になります。交通事故や脳卒中による身体的障害に加えて、さらに高次脳機能障害による症状も追加で申請できるので、障害等級が繰り上がることもあります。 また、失語の障害については、「言語機能の障害」の認定要領により認定することで、精神の障害と併合認定できるようになりました。つまり高次脳機能障害による「失語障害」と「精神障害」を合わせて申請すると、障害等級が繰り上がる可能性があります。
てんかん
ア)てんかん発作は、部分発作、全般発作、未分類てんかん発作などに分類されるが、具体的に出現する臨床症状は多彩です。また、発作頻度に関しても、薬物療法によって完全に消失するものから、難治性てんかんと呼ばれる発作の抑制できないものまで様々です。
さらに、てんかん発作は、その重症度や発作頻度以外に、発作間欠期においても、それに起因する様々な程度の精神神経症状や認知障害などが、稀ならず出現することに留意する必要があります。
イ)各等級に相当すると認められるものを一部例示すると次のとおりです。
(注1)発作のタイプは以下の通り
A:意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作
B:意識障害の有無を問わず、転倒する発作
C:意識を失い、行為が途絶するが、倒れない発作
D:意識障害はないが、随意運動が失われる発作
(注2)てんかんは、発作と精神神経症状及び認知障害が相まって出現することに留意が必要。また、精神神経症状及び認知障害については、前記「B 症状性を含む器質性精神障害」に準じて認定すること。
ウ) てんかんの認定に当たっては、その発作の重症度(意識障害の有無、生命の危険性や社会生活での危険性の有無など)や発作頻度に加え、発作間欠期の精神神経症状や認知障害の結果、日常生活動作がどの程度損なわれ、そのためにどのような社会的不利益を被っているのかという、社会的活動能力の損減を重視した観点から認定します。
様々なタイプのてんかん発作が出現し、発作間欠期に精神神経症状や認知障害を有する場合には、治療及び病状の経過、日常生活状況等によっては、さらに上位等級に認定します。
また、てんかんとその他認定の対象となる精神疾患が併存しているときは、併合(加重)認定の取扱いは行わず、諸症状を総合的に判断して認定します。
エ) てんかん発作については、抗てんかん薬の服用や、外科的治療によって抑制される場合にあっては、原則として認定の対象になりません。
知的障害
ア) 知的障害とは、知的機能の障害が発達期(おおむね18歳まで)にあらわれ、日常生活に持続的な支障が生じているため、何らかの特別な援助を必要とする状態にあるものをいいます。
イ) 各等級に相当すると認められるものを一部例示すると次のとおりです。
ウ) 知的障害の認定に当たっては、知能指数のみに着眼することなく、日常生活のさまざまな場面における援助の必要度を勘案して総合的に判断します。
また、知的障害とその他認定の対象となる精神疾患が併存しているときは、併合(加重)認定の取扱いは行わず、諸症状を総合的に判断して認定します。
エ) 日常生活能力等の判定に当たっては、身体的機能及び精神的機能を考慮のうえ、社会的な適応性の程度によって判断するよう努めます。
オ) 就労支援施設や小規模作業所などに参加する者に限らず、雇用契約により一般就労をしている者であっても、援助や配慮のもとで労働に従事しています。
したがって、労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、現に労働に従事している者については、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認したうえで日常生活能力を判断すること。
◆軽度の知的障害(療育手帳4度)の受給例も
知的障害の認定は、知能指数の低さだけでなく、日常生活の援助の必要度を考慮し認定されるとしています。したがって、軽度の知的障害で「愛の手帳(療育手帳)」4度の方も受給できる場合があります。
「愛の手帳」4度の状態とは、知能指数(IQ)がおおむね50〜75で、日常生活に差し支えない程度に身辺の事柄を理解できますが、新しい事態や時や場所に応じた対応は不十分な状態です。また、日常会話はできますが、抽象的な思考が不得手で、こみいった話は難しい方です。業務内容によっては普通に就労が可能なので、一般企業に働いている方もいます。そのような雇用契約により一般就労をしている方であっても、職場の援助や配慮の下で労働に従事している場合は、障害年金の対象になります。つまり、「働ける」からという理由で「不支給」という判断にはならないとしています。
発達障害
ア)発達障害とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものをいいます。
イ) 発達障害については、たとえ知能指数が高くても社会行動やコミュニケーション能力の障害により対人関係や意思疎通を円滑に行うことができないために日常生活に著しい制限を受けることに着目して認定を行います。
また、発達障害とその他認定の対象となる精神疾患が併存しているときは、併合(加重)認定の取扱いは行わず、諸症状を総合的に判断して認定します。
ウ) 発達障害は、通常低年齢で発症する疾患であるが、知的障害を伴わない者が発達障害の症状により、初めて受診した日が20歳以降であった場合は、当該受診日を初診日とします。
エ) 各等級に相当すると認められるものを一部例示すると次のとおりです。
オ) 日常生活能力等の判定に当たっては、身体的機能及び精神的機能を考慮のうえ、社会的な適応性の程度によって判断するよう努めます。
カ) 就労支援施設や小規模作業所などに参加する者に限らず、雇用契約により一般就労をしている者であっても、援助や配慮のもとで労働に従事しています。
したがって、労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、現に労働に従事している者については、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認したうえで日常生活能力を判断すること。
◆コミュニケーション能力などに着目
発達障害では、医師が作成する診断書の記載項目に「相互的な社会関係の質的障害」「言語コミュニケーションの障害」「限定した常同的で反復的な感心と行動」などの病状が挙げられています。 これらの病状は高機能自閉症やアスペルガー症候群において顕著にみられます。 つまり「人と視線が合いにくい、交流を求めない」「人とのコミュニケーションがうまくいかない」「強いこだわりがあり、興味や関心・活動が限定されている」などの症状がある発達障害が対象になります。発達障害の一つである自閉症などは低年齢(3歳以下)で発症するとされていますが、高機能自閉症やアスペルガー症候群などの場合は、「障害」に気づかれにくく20歳以上になって初めて受診する人もいます。初診日が20歳を超える場合は、公的年金加入要件や保険料納付要件も障害年金受給の要件になりますので注意が必要です。