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呼吸器・心臓の障害

呼吸器疾患による障害

※ 障害認定基準を省略し、解釈を加えています

●認定基準

呼吸器疾患による障害については、次のとおりです。

呼吸器疾患による障害の程度は、自覚症状、他覚所見、検査成績(胸部X線所見、動脈血ガス分析値等)、一般状態、治療及び病状の経過、年齢、合併症の有無及び程度、具体的な日常生活状況等により総合的に認定するものとし、当該疾病の認定の時期以後少なくとも1年以上の療養を必要とするものであって、長期にわたり安静を必要とする病状が、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものを1級に、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものを2級に、また、労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度のものを3級に該当するものと認定します。
また、呼吸器疾患による障害の認定の対象は、そのほとんどが慢性呼吸不全によるものであり、特別な取扱いを要する呼吸器疾患として肺結核・じん肺・気管支喘息があげられます。

●認定要領

呼吸器疾患は、肺結核、じん肺及び呼吸不全に区分します。

肺結核

(1) 肺結核による障害の程度は、病状判定及び機能判定により認定します。
(2) 肺結核の病状による障害の程度は、自覚症状、他覚所見、検査成績(胸部X線所見、動脈血ガス分析値等)、排菌状態(喀痰等の塗抹、培養検査等)、一般状態、治療及び病状の経過、年齢、合併症の有無及び程度、具体的な日常生活状況等により総合的に認定します。
(3) 病状判定により各等級に相当すると認められるものを一部例示すると次のとおりです。

(4) 肺結核に他の結核又は他の疾病が合併している場合は、その合併症の軽重、治療法、従来の経過等を勘案した上、具体的な日常生活状況等を考慮するとともに、第2「1 障害の程度」及び本節「1 認定基準」を踏まえて、総合的に認定します。
(5) 肺結核及び肺結核後遺症の機能判定による障害の程度は、「C 呼吸不全」の認定要領によって認定します。
(6) 加療による胸郭変形は、それ自体は認定の対象とならないが、肩関節の運動障害を伴う場合には、本章「第7節 第1 上肢の障害」として、その程度に応じて併合認定の取扱います。
(7) 「抗結核剤による化学療法を施行しているもの」とは、少なくとも2剤以上の抗結核剤により、積極的な化学療法を施行しているものをいいます。

 じん肺

(1) じん肺による障害の程度は、病状判定及び機能判定により認定します。
(2) じん肺の病状による障害の程度は、胸部X線所見、呼吸不全の程度、合併症の有無及び程度、具体的な日常生活状況等により総合的に認定します。
(3) 病状判定により各等級に相当すると認められるものを一部例示すると次のとおりです。

(4) じん肺の機能判定による障害の程度は、「C 呼吸不全」の認定要領によって認定する。

 呼吸不全

(1) 呼吸不全とは、原因のいかんを問わず、動脈血ガス分析値、特に動脈血O2分圧と動脈血CO2分圧が異常で、そのために生体が正常な機能を営み得なくなった状態をいいます。
認定の対象となる病態は、主に慢性呼吸不全です。
慢性呼吸不全を生じる疾患は、閉塞性換気障害(肺気腫、気管支喘息、慢性気管支炎等)、拘束性換気障害(間質性肺炎、肺結核後遺症、じん肺等)、心血管系異常、神経・筋疾患、中枢神経系異常等多岐にわたり、肺疾患のみが対象疾患ではありません。
(2) 呼吸不全の主要症状としては、咳、痰、喘鳴、胸痛、労作時の息切れ等の自覚症状、チアノーゼ、呼吸促迫、低酸素血症等の他覚所見があります。
(3) 検査成績としては、動脈血ガス分析値、予測肺活量1秒率及び必要に応じて行う運動負荷肺機能検査等があります。
(4) 動脈血ガス分析値及び予測肺活量1秒率の異常の程度を参考として示すと次のとおりです。
なお、動脈血ガス分析値の測定は、安静時に行うものとする。
A表 動脈血ガス分析値

(注)病状判定に際しては、動脈血O2分圧値を重視する。
A表 予測肺活量1秒率

(5) 呼吸不全による障害の程度を一般状態区分表で示すと次のとおりです。 

(6) 呼吸不全による各等級に相当すると認められるものを一部例示すると次のとおりです。

なお、呼吸不全の障害の程度の判定は、A表の動脈血ガス分析値を優先するが、その他の検査成績等も参考とし、認定時の具体的な日常生活状況等を把握して、総合的に認定します。
(7) 慢性気管支喘息については、症状が安定している時期においての症状の程度、使用する薬剤、酸素療法の有無、検査所見、具体的な日常生活状況等を把握して、総合的に認定することとし、各等級に相当すると認められるものを一部例示すると次のとおりです。

(注1) 上記表中の症状は、的確な喘息治療を行い、なおも、その症状を示すものであること。
また、全国的に見て、喘息の治療が必ずしも専門医(呼吸器内科等)が行っているとは限らず、また、必ずしも「喘息予防・管理ガイドライン2009(JGL2009)」に基づく治療を受けているとは限らないことに留意が必要。
(注2) 喘息は疾患の性質上、肺機能や血液ガスだけで重症度を弁別することには無理がある。このため、臨床症状、治療内容を含めて総合的に判定する必要がある。
(注3) 「喘息+肺気腫(COPD)」あるいは、「喘息+肺線維症」については、呼吸不全の基準で認定する。

(8) 在宅酸素療法を施行中のものについては、原則として次により取り扱います。
ア 常時(24時間)の在宅酸素療法を施行中のもので、かつ、軽易な労働以外の労働に常に支障がある程度のものは3級と認定します。
なお、臨床症状、検査成績及び具体的な日常生活状況等によっては、さらに上位等級に認定します。
イ 障害の程度を認定する時期は、在宅酸素療法を開始した日(初診日から起算して1年6月以内の日に限る)とします。
(9) 原発性肺高血圧症や慢性肺血栓塞栓症等の肺血管疾患については、前記(4)のA表及び認定時の具体的な日常生活状況等によって、総合的に認定します。
(10) 慢性肺疾患により非代償性の肺性心を生じているものは3級と認定します。
なお、治療及び病状の経過、検査成績、具体的な日常生活状況等によっては、さらに上位等級に認定します。
(11) 慢性肺疾患では、それぞれ個人の順応や代償という現象があり、また他方では、多臓器不全の病状も呈してくることから、呼吸機能検査成績が必ずしも障害の程度を示すものとは言えません。
(12) 肺疾患に罹患し手術を行い、その後、呼吸不全を生じたものは、肺手術と呼吸不全発生までの期間が長いものであっても、相当因果関係があるものと認められます。

心疾患による障害

※ 障害認定基準を省略し、解釈を加えています

●ペースメーカーは障害年金3級

身体障害者手帳と障害年金の等級は異なりますが、一般的に身体障害者手帳の等級を1マイナスしたものが障害年金の等級に該当するといわれています。しかし、心臓病の場合は全く異なります。例えば「人工ペースメーカー、人工弁移植、弁置換」身障者手帳では1級ですが、障害年金では3級です。

心疾患による障害の程度は、呼吸困難、心悸亢進、尿量減少、夜間多尿、チアノーゼ、浮腫等の臨床症状、X線、心電図等の検査成績、一般状態、治療及び病状の経過等により、総合的に認定するものとし、当該疾病の認定の時期以後少なくとも1年以上の療養を必要とするものであって、長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものを1級に、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものを2級に、また、労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度のものを3級に該当するものと認定します。

●虚血性心疾患、弁疾患、不整脈などで異なる認定基準

心疾患による障害は、弁疾患、心筋疾患、虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)、難治性不整脈、大動脈疾患、先天性心疾患に区分します。各疾患によって、用いられる検査が異なっており、また、特殊検査も多いため、診断書上に適切に症状をあらわしていると思われる検査成績が記載されているときは、その検査成績も参考とし、認定時の具体的な日常生活状況等を把握して、総合的に認定します。

ア 心疾患の障害等級の認定は、最終的には心臓機能が慢性的に障害された「慢性心不全」の状態を評価することです。この状態は虚血性心疾患や弁疾患、心筋疾患などのあらゆる心疾患の終末像です。
「慢性心不全」とは、心臓のポンプ機能の障害により、体の末梢組織への血液供給が不十分となった状態を意味し、一般的には左心室系の機能障害が主体をなしていますが、右心室系の障害も考慮に入れなければなりません。左心室系の障害により、動悸や息切れ、肺うっ血による呼吸困難、咳・痰、チアノーゼなどが、右心室系の障害により、全身倦怠感や浮腫、尿量減少、頚静脈怒張などの症状が出現します。

◆チアノーゼ……チアノーゼとは動脈血の酸素濃度が低いため黒色となり、ツメや唇が紫色になる症状です。この症状が現れる心疾患は、主に先天性心疾患である「チアノーゼ性心疾患」などがあります。先天性心疾患では酸素の少ない静脈血が動脈へ混入する時にチアノーゼの症状が現れ、重症となります。チアノーゼは出生時から生じている場合のほか、乳児期の早い時期は泣いたときだけ目立ち、しだいに常にみられるようになります。

◆頸静脈怒張……「頸静脈」とは頭部・頸部(首部)の血液を集めて心臓に送る頸部の太い静脈。「怒張」とは膨れること。つまり、頸静脈怒張とは首の左右を走行する静脈の流れが悪くなり、圧が高まって腫れる症状です。心臓の調子が悪いのでポンプ機能が上手作動しないために、首に静脈血が溜まり腫れてしまうのです。この症状が出る心疾患には右心不全、心臓弁膜症などがあります。

イ 心疾患の主要症状としては、胸痛、動悸、呼吸困難、失神等の「自覚症状」、浮腫、チアノーゼ等の「他覚所見」があります。「臨床所見」には、自覚症状(心不全に基づく)と他覚所見があります。他覚所見は医師の診察により得られた客観的症状なので常に自覚症状と連動しているか否かに留意する必要があります(以下、各心疾患に同じ)。重症度は、心電図、心エコー図・カテーテル検査、動脈血ガス分析値も参考とします。

ウ 検査成績としては、血液検査(BNP値)、心電図、心エコー図、胸部X線、X線CT、MRI等、核医学検査、循環動態検査、心カテーテル検査(心カテーテル法、心血管造影法、冠動脈造影法等)等があります。

エ 肺血栓塞栓症、肺動脈性肺高血圧症は、心疾患による障害として認定します。

オ 心血管疾患が重複している場合には、客観的所見に基づいた日常生活能力等の程度を十分考慮して総合的に認定します。

カ 心疾患の検査での異常検査所見を一部示すと、次のとおりです。
異常所見
(注) 原則として、異常検査所見があるもの全てについて、それに該当する心電図等を提出(添付)させること。

※「F」についての補足
心不全の原因には、収縮機能不全と拡張機能不全とがある。近年、心不全症例の約40%はEF値が保持されており、このような例での心不全は左室拡張不全機能障害によるものとされている。しかしながら、現時点において拡張機能不全を簡便に判断する検査法は確立されていない。左室拡張末期圧基準値(5―12mmHg)をかなり超える場合、パルスドプラ法による左室流入血流速度波形を用いる方法が一般的である。この血流速度波形は急速流入期血流速度波形(E波)と心房収縮期血流速度波形(A波)からなり、E/A比が1.5以上の場合は、重度の拡張機能障害といえる。

※「G」についての補足
心不全の進行に伴い、神経体液性因子が血液中に増加することが確認され、心不全の程度を評価する上で有用であることが知られている。中でも、BNP値(心室で生合成され、心不全により分泌が亢進)は、心不全の重症度を評価する上でよく使用されるNYHA分類の重症度と良好な相関性を持つことが知られている。この値が常に100pg/ml以上の場合は、NYHA心機能分類でⅡ度以上と考えられ、200pg/ml以上では心不全状態が進行していると判断される。

※「H」についての補足
すでに冠動脈血行再建が完了している場合を除く。

◆0.2mV以上のSTの低下……心電図検査で測定される波形を大きく分けると、P波、PQ部分、QRS波、ST部分、T波の5つがあります。ST部分は心電図の基本の線(基線)に一致するのが正常ですが、それより低いことをST低下と呼びます。0.2mV以上のST低下は狭心症などの虚血性心疾患に特徴的な所見です。

◆深い陰性T波……心電図には、心臓の電気的興奮が折れ線グラフのように示され、いくつかの種類の波形が表れます。このうち「T波」と呼ばれる波形は、心臓の電気的興奮が収まる時に生じる波形です。「陰性T波」は、T波が下向きになる波形で、心臓肥大や狭心症、心筋梗塞などの所見です。

◆心胸郭係数……心胸郭係数とは、胸郭の大きさと心臓の陰影の大きさの比較によって算出される「心臓の大きさ」を表す係数です。心肥大や心拡張があるときには、心胸郭比が50%以上となります。障害認定基準によると、心胸郭係数60%以上は異常検査所見の一つとなっています。

◆肺静脈うっ血……肺静脈がうっ血すると「左心不全」となります。心臓のポンプ機能が弱くなり、からだが必要とする血液の量を心臓が送り出せなくなると、肺に血液が滞り(うっ血),呼吸困難になったり胸水が貯まる症状が現れます。これが「うっ血性心不全」です。心臓の機能低下で、右心室の機能が低下すると、静脈系のうっ血で右心不全となり、左心室が低下すると肺静脈がうっ血する左心不全となります。

◆間質性肺水腫……間質とは臓器で、実質以外の部分をいいます。心臓病で心臓の中の血液の流れが滞ると、心臓の上流にある肺にまで血液があふれてきます。それがひどくなると、肺胞(酸素と二酸化炭素を交換する肺の小部屋)の中にまで水分や血液が流れ込み、水浸しの状態になります。この状態を「肺水腫」といいます。主な症状として呼吸困難、ゼーゼーと胸を鳴らして呼吸する「喘鳴」および「起座呼吸」があります。「起座呼吸」とは寝ていると苦しいので座って呼吸する症状です。気管支ぜんそくの発作の時と同じ症状になるので「心臓ぜんそく」ともいいます。

◆徐脈・頻脈性不整脈……不整脈とは、心拍数が異常に多い(頻脈)、または少ない(徐脈)ことにより、あるいは電気刺激が異常な伝導経路をとることにより、心拍リズム(脈拍)が不規則になった状態をいいます。不整脈によって、心臓の血液を送り出す能力が損なわれる(心拍出量の低下)と、体力低下、運動能力の低下、ふらつき、めまい、失神などの症状が現れます。失神は、心臓から送り出される血液が適切な血圧を維持できないほど少なくなったときに起こります。このような不整脈が続けば、結果として死に至ることがあります。また、その原因となっている心疾患の症状、たとえば胸痛や息切れを悪化させることもあります。

◆陳旧性心筋梗塞……心筋梗塞の発症2週間以内を「急性」、1カ月以上経過したものを「陳旧性」といいます。発症からの時間の経過で治療法、重症度も異なるので「急性」「陳旧性」と二つに分類されています。陳旧性心筋梗塞では、心筋の壊死部分は線維化・修復され、安定状態になります。しかし心電図では異常Q波と陰性T波がみられます。陳旧性心筋梗塞では残った心筋には負荷がかかり心臓が肥大するため、慢性心不全の原因となります。

◆左室駆出率 EF(%)……左室駆出率とは、血液を送り出す左心室の収縮率を示す指標で、この指標により心臓のポンプ機能の状態が分かります。正常値55%以上と言われています。この左室駆出率のデータはカテーテル検査でより精密に、エコー(超音波)検査で概要数値が分かります。障害年金の等級では「50%以下」が3級に「40%以下」が2級に該当する要件の一つとなっています。

◆BNP値(脳性ナトリウム利尿ペプチド)(pg/ml)……BNP(脳性ナトリウム利尿ぺプチド)は、心筋から分泌されるホルモンで、心臓にストレスがかかったり、心臓の肥大が進むと、この値が高くなります。心不全の重症度をあらわす血液検査によるマーカーで、基準値は18.4pg/mlとされています。この値が40を超えると、心疾患の疑いがあります。不整脈でも100以上になることがあります。

キ 心疾患による障害の程度を一般状態区分表で示すと次のとおりである。

(参考) 上記区分を身体活動能力にあてはめると概ね次のとおりとなる。

(注) Metsとは、代謝当量をいい、安静時の酸素摂取量(3.5ml/kg体重/分)を1Metsとして活動時の酸素摂取量が安静時の何倍かを示すものである。

◆Mets(運動強度)……METsとは、簡単にいうと身体活動の強度を表す強さの単位です。座って安静にしている状態を1メッツとし、運動によるエネルギー消費量が安静時の何倍にあたるかを示すものです。よりメッツが大きくなるほど、運動強度の高い動作であるといえます。例えば、1メッツは「座って安静にしている状態」、3メッツは「通常歩行」、4メッツは「庭掃除」などのような動作になります。

ク 疾患別に各等級に相当すると認められるものを一部例示すると、次のとおりです。

弁疾患


(注1) 複数の人工弁置換術を受けている者にあっても、原則3級相当とする。
(注2) 抗凝固薬使用による出血傾向については、重度のものを除き認定の対象と

◆抗凝固薬使用による出血傾向……病変のある血管内で血栓が形成されることを抑制する薬を抗凝固薬といいます。人口弁装着後も血栓防止のために服用します。副作用として、全身の出血傾向が現れ、鼻血や歯グキからの出血などの症状があります。この副作用については軽度のものは障害年金の認定については対象としません。

◆NYHA心機能分類……NYHA心機能分類は、ニューヨーク心臓協会による、心不全の重症度を示した分類です。日常生活動作での症状によって、4つにクラス分けされています。クラス3以上になると、原則として入院治療が必要とされています。クラスⅣは障害年金の等級でも1級に相当する重症度です。おおむね、クラスⅡで3級相当、クラスⅢで2級相当といわれています。

●NYHA心機能分類

心筋疾患


(注) 肥大型心筋症は、心室の収縮は良好に保たれるが、心筋肥大による心室拡張機能障害や左室流出路狭窄に伴う左室流出路圧較差などが病態の基本となっている。したがってEF値が障害認定にあたり、参考とならないことが多く、臨床所見や心電図所見、胸部X線検査、心臓エコー検査所見なども参考として総合的に障害等級を判断する。

◆肥大型心筋症……左心室の壁(筋肉)の厚さは通常1センチ以下ですが、これが異常に厚くなって左心室が狭くなる病気を「肥大型心筋症」といいます。このうち、左心室の出口に近い部分の壁が肥大し出口をふさいでしまうタイプを「閉塞性肥大型心筋症」といいます。心臓は収縮時に筋肉が厚くなります。心筋症とは、心機能障害を伴う心筋疾患であり、中でも肥大型心筋症は、主として左室、時に左右両室の肥大を主徴とし、機能的には収縮は良好に保たれますが、心筋肥大に伴う拡張期に心室が十分に拡張できないことを特徴とします。

◆左室流出路圧較差……上部中隔肥厚が他の部分に比べて著しく厚い場合、本来ならば左室と大動脈弁下部の圧はほぼ同じはずですが、閉鎖性肥大型心筋症では閉塞によって大動脈弁下部の圧力が減弱して、左室圧が大動脈圧より大きくなることです。

虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)


(注) 冠動脈疾患とは、主要冠動脈に少なくとも1ヶ所の有意狭窄をもつ。あるいは、冠攣縮が証明されたものを言い、冠動脈造影が施行されていなくとも心電図、心エコー図、核医学検査等で明らかに冠動脈疾患と考えられるものも含む。

難治性不整脈

 障害認定基準によると、難治性不整脈とは「放置すると心不全や突然死を引き起こす危険性の高い不整脈で、適切な治療を受けているにも拘わらず、それが改善しないもの」とされています。不整脈の中には、生死にかかわる危険な不整脈があります。例えば、洞不全症候群や房室ブロックで、3秒以上の心停止と、めまいや失神がある場合にペースメーカーが適用になります。また、突然死をまねくような頻脈性不整脈の発作を起こした人や、起こす危険性の高い人は、体内に除細動器を植え込んでしまう「植え込み型除細動器(ICD)」によって、危険な発作を予防する方法がとられます。このような放置すると突然死を引き起こす可能性が高い不整脈は、難治性不整脈と規定されています。


(注1) 難治性不整脈とは、放置すると心不全や突然死を引き起こす危険性の高い不整脈で、適切な治療を受けているにも拘わらず、それが改善しないものを言う。
(注2) 心房細動は、一般に加齢とともに漸増する不整脈であり、それのみでは認定の対象とはならないが、心不全を合併したり、ペースメーカーの装着を要する場合には認定の対象となる。

大動脈疾患


(注1) Stanford分類A型:上行大動脈に解離がある。
Stanford分類B型:上行大動脈まで解離が及んでいないもの。

(注2) 大動脈瘤とは、大動脈の一部がのう状又は紡錘状に拡張した状態で、先天性大動脈疾患や動脈硬化(アテローム硬化)、膠原病などが原因となる。これのみでは認定の対象とはならないが、原疾患の活動性や手術による合併症が見られる場合には、総合的に判断する。
(注3) 胸部大動脈瘤には、胸腹部大動脈瘤も含まれる。
(注4) 難治性高血圧とは、塩分制限などの生活習慣の修正を行った上で、適切な薬剤3薬以上の降圧薬を適切な用量で継続投与しても、なお、収縮期血圧が140mmHg以上又は拡張期血圧が90mmHg以上のもの。
(注5) 大動脈疾患では、特殊な例を除いて心不全を呈することはなく、また最近の医学の進歩はあるが、完全治癒を望める疾患ではない。従って、一般的には1・2級には該当しないが、本傷病に関連した合併症(周辺臓器への圧迫症状など)の程度や手術の後遺症によっては、さらに上位等級に認定する。
・ 大動脈瘤の定義:嚢状のものは大きさを問わず、紡錘状のものは、正常時(2.5~3cm)の1.5倍以上のものをいう。(2倍以上は手術が必要。)
・ 人工血管にはステントグラフトも含まれる。

◆Stanford A型・B型……上行大動脈に解離腔があるかないかでStanford「 A型」「B型」に分類されるのには理由があります。上行大動脈に解離腔が及んでいる場合「A型」は症状が悪化する要因が3つあります。第一に、発症後急性期に解離腔が冠動脈入口部を圧迫して心筋への栄養が不十分となり心ポンプ機能が失われて急死に至る可能性がある。第二に、解離腔が大動脈基部まで及んで大動脈弁をゆがめ,高度の閉鎖不全を生じて心不全が急速に進み死に至る可能性もある。第三に、解離腔で血豆状に溜まった血液成分が薄く突っ張った外膜を介して心嚢(心臓を包んでいる袋)の中にしみこんでしまい,心臓を外側から圧迫して血圧を出にくくしてしまう可能性もあります。この症状を「心タンポナーデ」といいます。 これに対して「B型」は、解離が下行大動脈に限局している場合には、厳重な安静と降圧治療(血圧を下げる治療)によって切り抜けられる場合が多いのです.つまり上行大動脈解離では緊急的あるいは準緊急的に手術治療が必要となることが普通であるのに対して、下行大動脈の解離では厳重な内科治療が第一選択となる、という治療方針上の違いが出てくるわけです。

先天性心疾患

◆Eisenmenger化(アイゼンメンジャー症候群)……心房中隔欠損、心室中隔欠損などの先天性心疾患は、左右の心房の間に穴があるので、右心系よりも左心系の圧が高いため、 血液は左心房から右心房へと流れます。このような病気の人は、肺高血圧が高度となると、逆に静脈血の一部が動脈側(右室から左室)にそのまま流れ込むようになってしまいます。 これがアイゼンメンジャー症候群です。この病気になると、もともとある先天性心疾患を治療するための手術は非常に危険が高くなります。全身麻酔を行う手術をあえて行って、たとえ生存しえても、その後の寿命をかえって縮める危険性が高くなります。

◆肺体血流比1.5以上の左右短絡……心房中隔欠損症では、血行動態が左右短絡を生じるために右室に拡張期負荷がかかる状態になります。これは拡張期にコンプライアンスの大きな右心室の方に、左房からの血流が流れやすいからです。 大量の左右短絡がある場合には肺血流が増大し、肺高血圧によってアイゼンメンジャー症候群となり、右左短絡に発展します。 心房中隔欠損症の治療では、 「肺/体血流比が1.5以上」で肺血流が保たれている症例が手術適応であり、欠損孔閉鎖術を行なうことができます。 肺高血圧症になると孔の閉鎖によって肺高血圧症が増悪するため、手術はできなくなります。 その目安は肺/体抵抗比が 0.7 以上です。

◆平均肺動脈収縮期圧50mmHg以上……肺動脈圧の正常値は一般に収縮期圧30~15mmHg、拡張期圧8~2mmHg、平均圧18~9mmHg とされています。従って収縮期圧で 30mmHg以上、平均圧で 20mmHg 以上の肺動脈圧が存在する場合に、これを「肺高血圧」と定義することが一般的です。肺動脈平均圧45mmHg 以上という極めて高度の「肺高血圧」は肺血管性または肺血管原性肺高血圧症と呼ばれる場合があります。

●心臓移植、人工心臓は1級

心臓移植や人工心臓等を装着した場合の障害等級は、次のとおりとします。ただし、術後は次の障害等級に認定するが、1~2年程度経過観察したうえで症状が安定しているときは、臨床症状、検査成績、一般状態区分表を勘案し、障害等級を再認定します。

移植